人間風車

2002/06/11(火)
【シリコン脳の考え方】

人工知能は、
我々生き物の脳や進化のシステムをまねて設計されることが多い。
いかに我々人間のような高い知性を持たせらえるかが、
人工知能の課題だが、
我々のような高い知性を得ることと、
我々生体の仕組みを再現することは果たしてイコールだろうか?
このことに疑問を持つ学者はあまりいない。
チェスで人間チャンピオンを破ったディープブルーも、
人工知能学者はあまり高く評価はしていない。
なぜなら、
ディープブルーは高度な戦略を生み出す
アルゴリズムを持っているわけではなく、
彼の強さは、過去の勝敗パターンのデータベースの巨大さと、
その中から一番よい戦略を見つけだす速さによるものだからだ。
つまり、コンピュータ的な力業による力なのだ。
これは、生体の知能のあり方とかけ離れている。
故に、人工知能のモデルとしてはあまり評価されていない。
しかし、シリコンでできた脳が、
タンパク質でできた脳と同じアルゴリズムで動く必要があるだろうか?
(脳)細胞間の電気信号の伝わる速度はミリ秒単位である。
それに対して、シリコン脳(CPU)は1秒間に1兆回もの演算を行う。
両者の速度と同時に扱える情報量には、天と地の開きがある。
一方、脳細胞のネットワークは、冗長性に富み、
役割を担っていた細胞が一つや二つ死のうが、
全体としての機能はそこなわれない。
一方、シリコンの脳では、
例え役割を持っていない細胞(ユニット)でも、
ネットワークを構築した後では取り除くことはできない。
途中で破壊でもしようものなら、即座に全体の機能が停止する。
また、生体の脳細胞は、多様な化学反応によって、
複雑な状態変化を産む(特に時間経過に伴う状態遷移)。
こうした状態変化をシリコンの脳が理解できる形に翻訳すること
(関数化すること)は、非常に難しい。
現在の最も完成されたニューラルネットワークモデルでさえ、
そこで使われている関数は、
非常に単純なモノで、
生体の脳細胞の基本的な振る舞いのごく一部しか再現できていない。
こうした両者の根本的な資質の違いを考えると、
シリコンの脳に生体の脳のような働きをマネさせることには、
根本的なムリやムダがあるという気がしてならない。
90年代より息詰まっている
人工知能開発の根元的な問題もここに由来する。
ならば、どうすべきか?
量と速度というシリコンの脳の得意技を駆使した、
生体の知性とはまるっきり違う知性を探すべきだろう。
たしかに、事象の理解には、
フレーム問題と呼ばれるやっかいな問題が存在する。
しかし、この問題も生き物のように
世界を理解させようとしたが故に発生した問題であるのだから、
生き物のそれと全く違う事象の「理解」があれば
、解決するのかもしれない。
では、我々が生き物的でない「理解」のアルゴリズムを
見つけだすことができるのだろうか?
これははなはだ怪しい。
我々は、我々の脳が理解しやすいような「理解」しか
理解できないと考えたほうがよさそうだ。
シリコンの脳にふさわしい考え方は
シリコンの脳自体に考えさせたほうがよさそうだ。
我々の進化は自然界の淘汰圧によって進められてきたが、
彼らは、膨大な量のシミュレーションからそれを産むのかもしれない。
あるいは、個体という概念すら存在しない方法をとるのかもしれない。
ロボットに征服される時代には生きたくないが、
彼らが彼らなりに考えて得た知能(それこそ人工知能だ)が
どんなものか見てみたいものである。

以上は、某所に掲載する予定の原稿でした。
すっかり投函するのを忘れてて、
締め切りをすぎてしまったので(催促してくれればよかったのに)、
ここに掲載します。

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